私の考えでは、デザインには大きく3つの要素があります。
① 意匠性:どのように見せるか
② 機能性:どのような機能を持つか
③ 体験性:どんな体験を与えるか
ユーザーはまず見た目で印象を受け取り、次にどんな機能があるのかを感じ取り、最後にそのデザインから得られた体験や感情で判断します。つまり、実感する順番は意匠性から始まり、機能性、体験性と続きます。 ただ、デザインを制作する立場としては、この順番とは逆に考える必要があります。まず体験性を決め、その次に必要な機能性を固め、最後に意匠性で見せ方を整える。この流れがもっともブレのないデザインにつながります。もちろん、デザインには他にも細かい要素がたくさんありますが、大きく分類するならこの三つが軸になります。
実感する順番とは
実感する順番とは、ユーザーがデザインに触れたときに「どこから印象を受け取るか」という順序です。人と初めて会ったとき、まず見た目でなんとなく印象が決まるのと同じで、デザインでも最初に目に入る意匠性が判断の入り口になります。見た目が分かりにくかったり好ましくないと、それだけで離脱されてしまうこともあります。
そのあとに「どんな機能があるのか」「どう触れるのか」を確認し、最後にそこから得られた体験が好意的か否かが残ります。この考え方を理解しておくと、デザインを作る前の整理がしやすくなります。
ユーザーにポジティブな印象を与える「体験性」
まず最初に整理すべきなのが体験性です。ここでの体験性とは、ユーザーがデザインを通してどんな気持ちや印象を得るかという部分です。
コンビニでお弁当を手に取ったとき、もし美味しそうに見えなかったり、食べにくそうに感じたり、そもそも何の料理か分からない場合、自然と別の商品を選んでしまうことがあると思います。これは、見た目や情報の見せ方を含めた「体験」がネガティブな方向に働いている例です。
デザインも同じで、目的に合わせたポジティブな体験をどのように作るかが重要になります。ただ、体験を作ると言っても、ただオシャレに仕上げることが目的ではありません。何を達成するためのデザインなのかが軸になります。
ブランドサイトであれば世界観を伝えたり、ブランド価値を高めたりすることが目的になるため、意匠性をつくり込む必要があります。しかし一般企業のコーポレートサイトがそれを真似しても、必ずしも目的に合うとは限りません。多くの場合、信頼感や分かりやすさが最優先になります。
目的達成のための補助ツール「機能性」
次に考えるべきなのが機能性です。どんな体験を提供したいのかが決まると、必要な機能が自然と見えてきます。
たとえば「商品Aの売上を伸ばしたい」という目的があったとします。
このとき、すぐにEC機能が思い浮かぶかもしれませんが、すでに商品を楽天などで販売している場合、必ずしも自社ECが必要とは限りません。むしろ資料のダウンロードや問い合わせフォーム、場合によってはチャットサポートのほうが効果的なケースもあります。扱う商品が多ければ検索機能が必要になることもあります。
また、ユーザーに特定の体験をさせたい場合、それを後押しする機能が必要になることもあります。家事を助ける商品を扱う企業が、ブログや動画コンテンツを用意することで、実際の使用シーンをイメージしてもらいやすくなる、というのが良い例です。
機能性は単体で存在するのではなく、体験を支えるための要素として決めていくのが大切です。
体験させるための工夫「意匠性」
意匠性は、デザインの印象を決める「顔」のような存在です。美しく見せるという意味もありますが、それ以上に大切なのは「見やすく・見つけやすく・読みやすく」整えることです。
文字がぎゅっと詰まっていて読みにくかったり、どこに何があるのか分からなかったり、レイアウトが雑然としているデザインは、それだけでユーザーにストレスを与えてしまいます。どれだけ機能が優れていても、必要な情報が見つからないデザインでは体験性を損なってしまいます。
意匠性は飾りではなく、体験性と機能性を正しく伝えるための重要な役割を持っています。
意匠性にこだわるのは間違いではない
見た目にだけこだわったデザインが、悪いという事はありません。似たようなモノやサービスが既にあって、差別化を図ることが難しく、ブランドイメージの差も特にない場合は、見た目にこだわるしかありません。逆に言うと、意匠性で与える印象だけでも、差別化する必要があります。また、厳しい言い方ですが、商品やサービスにこだわりが無いものは、見た目でごまかすしかないという事になります。
目的がないデザインは存在しない
デザインを行う上で最も重要なことは、実は上記の3つの要素ではありません。説明の最中にも少し出てきましたが、最も重要で、欠けてはいけない物は、デザインの「目的」です。上で紹介した3つの要素は、あくまで目的を達成するための要素です。デザインは目的を達成するために存在する物なので、目的が何もないのであれば、デザインは存在できません。
世にあるデザイン全てには、何かしらの目的が存在します。何となくオシャレに見えるから、というデザインも存在するかもしれませんが、なぜオシャレに見えるデザインを選択したのか、という理由はあるはずです。
まとめ
この三大要素と目的を独立して考えてしまうのではなく、合わせて考える事が重要です。すべてのコンテンツや媒体で目的も体験も機能も同じという事はありません。例えば、Webサイトであれば、ブログの機能を付けたいとお客様から要望があった場合、制作側は体験性と意匠性を決める必要があります。そして、順番的には、ブログを入れることで、ユーザーに何を体験させたいのか、という体験性を先に決める必要があります。逆に意匠性を先に決めると、デザイン制作が難しくなります。要は、土台を作ってないのに家の見た目を決めるのと同じです。実際制作してみたら、思っていた物と全然違うものが完成してしまいます。まず、何を目的としているのかという事と、ターゲット層を明確にすることが土台になります。